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名古屋地方裁判所 平成6年(わ)1557号 判決

本籍及び住居

名古屋市港区神宮寺一丁目一〇四番地

会社役員

日美定昭

昭和一七年七月二九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宇川春彦、弁護人福岡宗也各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金二七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、名古屋市港区神宮寺一丁目一〇四番地において、「日美建材」の名称で建築資材販売等の事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、簿外の普通預金口座を開設してその口座に売上金の振込送金を受けたり、受取手形を別段預金により取り立てるなどして売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成二年分の実際総所得金額が七三三二万六九一九円であったのにかかわらず、平成三年三月一一日、名古屋市中川区尾頭橋一丁目七番一九号所在の所轄中川税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が一九二〇万三七六九円であり、これに対する所得税額はすでに源泉徴収された税額を控除すると七〇万七八二〇円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の所得税額二六一二万九〇〇〇円と右申告税額との差額二六八三万六八〇〇円(一〇〇円未満切り捨て)を免れ、

第二  平成三年分の実際総所得金額が一億四一〇万七六七四円であったのにかかわらず、平成四年三月一六日、前記中川税務署において、同税務署長に対し、同三年分の総所得金額が二八五一万三三二三円であり、これに対する所得税額が四八二万三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四二六一万七八〇〇円と右申告税額との差額三七七九万七五〇〇円を免れ、

第三  平成四年分の実際総所得金額が一億八三万四二〇五円であったのにかかわらず、平成五年三月一五日、前記中川税務署において、同税務署長に対し、同四年分の総所得金額が一五二二万五五円であり、これに対する所得税額が七八万五八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四二九五万五四〇〇円と右申告税額との差額四二一六万九六〇〇円を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通(乙1ないし5)

一  日美たず子(甲9)及び太田勝也(甲10)の検察官に対する各供述調書

一  中川税務署長作成の証明書(甲4)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書八通(甲11、13、15、16、18ないし21)

判示第一の事実について

一  中川税務署長作成の証明書二通(甲1、5)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(甲14)

判示第二、第三の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(甲17)

判示第二の事実について

一  中川税務署長作成の証明書二通(甲2、)

判示第三の事実について

一  中川税務署長作成の証明書二通(甲3、7)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(甲12)

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各罪についていずれも、所定の懲役刑及び罰金刑を併科するとともに、情状により罰金刑については同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないとは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件犯行は、判示のように、ほ脱税額が合計一億六八〇万円余と高額で、ほ脱税率も非常に高く、結果は重大である。その手口も、簿外の銀行口座を設けてそこに売上金を振り込ませたり、別段預金により受取手形の取り立てをしたりという工作をした上での売上除外等の方法によるものであって悪質である。そして、本件犯行の動機は、自分で稼いだ金を税金で持って行かれるのはばからしいと思い、また景気の波を乗り切るための余裕ある運転資金、将来の事業拡大に必要な土地の取得のための資金を得るためや領収証のもらえない接待費等に充てる裏金を捻出するために企てたというのであるが、誠実に納税義務を果たした上で、残った資金により景気対策や事業拡大を図るべきであり、また、領収証がもらえない接待費等はそもそも経費性があいまいであるし、経費等として認めてもらいたいのなら、きちんと領収証を得て経理処理すべきであって、動機において特に斟酌すべきものはない。以上からすると被告人の刑事責任は重い。

しかし他方、被告人は当初から査察に協力的な態度をとり、反省していることが認められる。そして、本件発覚後日美建材を法人化し、税理顧問を定め、帳簿を整備して、再犯防止の努力をしているほか、本件ほ脱を行った平成二年分から平成四年分について、修正申告をした上で本税、重加算税及び延滞税の納付を完了している。また、被告人には前科がない。これら、被告人に有利な事情を考慮して、懲役刑について刑の執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した(求刑、懲役一年六月及び罰金三二〇〇万円)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋哲夫)

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